特集
2020.08.19
WITHSMILE編集部

災害時に命を守る力は「想像力」|静岡大学防災総合センター 特任教授 岩田 孝仁先生


「防災」という言葉を聞くと、地震を想像する静岡県民が多いのではないでしょうか?しかし、災害は、地震、津波、水害などの自然災害に加え、コロナ禍のような疾病災害、戦争やテロなども含まれます。この中で、特に自分の身にどのようなリスクが降りかかるのか、どのようにリスクに備え、いざ遭遇したときにどう回避するかを具体的に「想像」することが、防災の基本姿勢だそうです。
今回は、防災の考え方について静岡大学防災総合センター 特任教授 岩田 孝仁先生にお話しを伺いました。


自然災害の多い日本列島


自然災害は特殊のことだと思われがちですが、日本列島は古くから多くの自然災害を経験してきました。4つのプレートがせめぎ合う場所に位置し、プレートが沈み込みできたのが日本列島です。そのため、大きな地震や噴火の可能性を常に秘めています。また、熱帯低気圧や台風が偏西風で運ばれる通り道でもあり、温帯と熱帯の中間のような気候でもあるため、雨量の多い地域です。このような環境により災害の経験が多いことから、自然に支え合う仕組みが生まれました。古くは平安時代から制度が確立されており、現代では、行政が避難勧告や指示を出し、住民に危険を知らせることが、災害対策基本法で定められ、被災者の救助、仮設住宅の建設などは災害救助法で定められています。災害に遭遇した場合、社会全体で救助、支援するという仕組みが備わっているのです。裏を返せば、救助されることが当たり前だと思い、安全に対して過信している可能性も…
災害というものは、誰にでも襲ってくるものと考え、自分自身を守るために、身構えておく必要があります。


地形から読み解く、住まい周辺の弱点


水害に備えるために、まずは住まい周辺の地理について学んでみましょう。梅雨時期になると川の氾濫など水害のニュースが増え、「これまで、経験したことがない被害」と答える住民のインタビューが放送されますが、実は氾濫を起こす川の周辺は、昔から水害に合っている可能性が高いのです。普段水が流れている部分を川だと認識している人が多いと思いますが、川の周辺の平地は、上流から土砂が流されてできた扇状地などの氾濫原であり、そこも川の一部なのです。本来は堤防の有無に関わらず、川は平地を含めた一体を流れるものです。そのため、江戸時代からある古い集落のほとんどは、段丘と呼ばれる高台にあります。繰り返し起こる川の氾濫を、先人たちは知っていたからです。けれど、人口が増え、治水工事も進み、堤防で川が仕切られると、川の一部であった氾濫原に街ができ始めます。多少の雨量であれば、川が氾濫することはありませんが、数十年に一度の大雨となると、水は堤防を越え、元々の姿に戻ってしまいます。
今お住まいの場所が、どのように形成された土地なのか理解することで、どのような危険性があるのかが見えてきます。これから新居を決める人は、駅や学校、スーパーといった生活の利便性を考慮することと同じように、地形についても調べてみましょう。

※氾濫原とは…河川の洪水などの繰り返しにより堆積物で形成された平地で、洪水時に冠水する場所

災害が起こる前にできること


自然災害は、突然、誰にでも迫りくることですが、大雨などによる水害は、比較的備えが可能な災害です。その時、身の回りではどういった状況になっているのか確認しておきましょう。インターネットで様々な機関が、リアルタイムで情報を配信しています。気象庁のサイトでは、現在の「雨雲の動き」、15時間後まで予測できる「今後の雨」、土砂災害、浸水害、洪水の「危険度分布」が公表されています。静岡県土木総合防災情報「サイポスレーダー」では、基本的な気象情報に加え、河川の水位情報、波高情報、ダム情報、河川の様子を写すライブカメラが確認できます。日ごろから、このようなサイトをチェックしておくことで、災害時にいち早く普段との違いに気づくことができます。避難するタイミングを逃すことが防げます。自宅の裏に山がある、川が近くに流れているなど、地形によって注意すべきことが異なりますが、事前に危険性を把握しておくことが、命を守る行動につながります。
一方、地震の予測はとても難しいため、どこでも起きるという前提で普段から備えをしておくことが大切です。住んでいる環境で何が起こり得るか想定して、個々の予防策を講じることが求められます。一度、自身の置かれている環境を観察してみましょう。家の中では、タンスや冷蔵庫などは倒れてこないか?外に出るための通路に危険はないか?建物の耐震は十分か?多角的に観察し、あらゆる局面を想定することで、リスクを知ることができ、対処法が見えてきます。



自分の限界を知ること


赤ちゃんや高齢者、アレルギーや持病を抱えている人など、人により必要とする防災用品は異なります。何から何まで、全てを自力で揃えようとすることは、不可能に近いことです。いざという時に、自分たちにとって最低限必要ものは何かを考え、備えるようにしましょう。これを考えることにより、自分たちの生活の弱点が見えてきます。自力でできること、できないこと。できないことは、近所の人、町内会など周囲に助けてもらう必要があると理解することも、防災意識の一つです。
1995年の阪神・淡路大震災のときには、多くの人が建物の下敷きになり3万5千人が自力で脱出することができなかったそうです。そのうちの77%に当たる約2万7千人は、地域の人によって助けだされたというデータが残っています。救助や復旧に向かう過程で、人々の支え合いは不可欠です。日ごろから、周辺の人とコミュニケーションをとり、つながりを築いておくことも、大切な防災です。

さいごに、今回のお話では、「こんなグッズが役に立つ!」といった具体的な防災用品は、紹介していません。
乳児用の衛生用品、持病の薬、介護用品、タブレットや充電器などインターネットに必要なツール…その人によって、いざという時に傍にあって欲しいものが異なるからということもありますが、「何を揃えるべきか」「どんな災害に備えるべきか」ということを、「想像力」を働かせて、お一人お一人が考えるきっかけになればと思ったためです。
あなたにとって、必要なグッズ、それの安全な保管場所、避難経路、その先の復興など、平穏時にゆっくりと考えることで、命を守る想像力を養ってみませんか。




岩田 孝仁 (いわた たかよし)先生
静岡大学防災総合センター 特任教授
1979年に静岡大学理学部地球科学科卒業、静岡県庁に入庁し一貫して防災・危機管理行政を担当。危機管理監兼危機管理部長を最後に退職し2015年から静岡大学教授、2017年から防災総合センター長、2020年から現職。日本災害情報学会理事、日本災害復興学会理事、中央防災会議の専門調査会や内閣府の火山防災エキスパート、内閣府、文部科学省、消防庁、気象庁など政府の各種委員、静岡県防災会議委員などを務める。2018年9月に防災功労者防災担当大臣表彰を受賞。専門は防災学・防災行政学。

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