特集
全国でも山梨だけ!お腹に子だるまを抱えたユニークな「甲州親子だるま」
来年は「繁栄の年」といわれるねずみ年です。雑貨店などでもねずみの置物などをよく見かけるようになりましたよね。
甲府市池田にある「民芸工房 がくなん」は、年末に向けて干支のねずみの土鈴づくりで大忙しです。
毎年、神社などに納める「甲府十二支 招福土鈴」をつくっていて、12月はその最盛期。
夏前からコツコツと焼き上げてきた素焼きの土鈴に、一つ一つ手作業で丁寧に色を入れ、表情を描いていきます。
「今年は少ないですが、それでも2000個はつくりますね。一つ一つに福が招かれますようにという思いを込めてつくっています」
そう話すのは「がくなん」の二代目、斉藤岳南さんです。
△土鈴に色を入れる岳南さん
なかでも150年ほど前からつくられているという「甲州親子だるま」は、お腹に子どもを抱えたかわいらしい姿が印象的で、全国でほかにはどこにもない甲州だけに伝わるユニークなだるまです。
その素朴な表情はひと目見るだけでほほ笑んでしまい、見れば見るほど愛着がわいて、なんともキュート!最近は雑貨屋さんやセレクトショップなどでも販売されるようになり、世代を超えて人気を集めています。
△甲州親子だるま
そんな親子だるまの独特な形や色は、地域の歴史と関係しています。
武田信玄がつくったことで知られる信玄堤がある釜無川(かまなしがわ)から御勅使川(みだいがわ)にかけての流域は砂地が多いため米の栽培が難しく、
かつては綿や桑が育てられ、蚕の栽培が盛んでした。
親子だるまは繭や綿の豊作を願って色は基本的に白、形は繭を模していて、
子どもがたくさん生まれるようにと、お腹に子どもを抱えるスタイルになったといわれています。
親だるまの目線は子を見守り、また神棚に置いた時に拝む人と目が合うよう下向きに、子だるまは「目標に向かってまっすぐに進んでほしい」という思いを込めてまっすぐ前を見つめています。
また「親より立派な人になってくれ」という親心から、子だるまにも立派なひげがあります。
作り手によっても雰囲気が変わるそうで、父である初代岳南さんがつくった親子だるまと、二代目岳南さんがつくる親子だるまを並べてみると、確かにその表情には個性がでています。
△左が初大作、右が二代目作
「この仕事に入ったころは隣に並んで一日中、親父の仕事を見ていて、夜になると新聞紙を広げてだるまの顔を描くっていうのが一年ぐらい続きました。そうやって学んだんですが、やっぱり描き手が違うと表情は違いますね。父のと比べて私のは武骨なんですよね。父は数寄屋建築をしていた職人で、設計もしたし、俳句もたしなみ、何でもできる人だったんですよ。手の届かない存在でしたね」
△工房の壁に掲げられている初代岳南さんの写真
そんなお父さんと比べてしまい、若い時は自分のつくるものに自信が持てない時もあったといいます。
でも都内の百貨店で開催されたお正月の催事に出展していた時、同じ催事に出展していた芸術家から「あたなのものがどうしてそんなに売れるのか不思議だったが、よく見たらその理由がわかった。素朴なんだ。その泥くささがいいんだ」と言われたそうです。
「そこからですね、自信がもてるようになったのは。でもいまだに本当に満足できるものなんてできませんよ。まだまだです」と言いますが、岳南さんがつくる親子だるまには、ふんわりとした幸せを感じさせてくれるようなあたたかさがあふれています。
岳南さん自身も、この日初めてお会いしたのに初めての気がしないぐらい親しみやすく、ストーブにあたりながらの対話はとても心地よく、ついつい長居してしまったほど。岳南さんのつくるだるまや土鈴は、そんな人柄も表れているのだと思います。
でも土産品も多様化していく中で、観光地での販売は少なくなり、民芸品をつくる人も減っていったといいます。
甲州だるまもかつては県内の何ヵ所もの工房でつくられていたそうですが、現在は岳南さんの工房だけです。
「何百年も続いてきたものがぷつっと切れてしまうのはやっぱり寂しいですよね。地域の伝統を継いでいくためにも、つくり続けていきたいと思います。親父の代からここまで70年余り。100年は続くようにしたいですね」
工房には今、息子さん2人が入っていて、一緒にだるまや土鈴づくりに取り組んでいます。
この時代に伝統工芸や民芸で食べていくことの厳しさも実感しているという二男の忠雄さんは「伝統が続けばいいなとは思っています」と控えめに言いますが、子どもたちに人気の風車をつくって各地のクラフト市に出展するなど、新たな活動も展開しながら「がくなん」を盛り上げています。
そんな息子さんたちの存在を岳南さんも心強く感じているようで、「あとに続く者がいるかいないかは大きな違いですからね」とうれしそうな笑顔を浮かべました。
最後にお2人に並んでもらって写真を撮りました。カメラを向けると、素敵な笑顔になった2人。その姿が、手にしている甲州親子だるまと重なりました。
△岳南さんと忠雄さん
甲州親子だるまのお求めは工房を訪ねるほか、甲府駅から車で10分のところにある「山梨県地場産業センター かいてらす」や、甲府駅ビル・セレオ内にある雑貨店などでも取り扱っています。
工房を訪ねる際は、営業時間などを問い合わせてから出掛けてみてください。
■民芸工房 がくなん
住所 山梨県甲府市池田2-4-5
電話番号 055-252-7661
甲府市池田にある「民芸工房 がくなん」は、年末に向けて干支のねずみの土鈴づくりで大忙しです。
毎年、神社などに納める「甲府十二支 招福土鈴」をつくっていて、12月はその最盛期。
夏前からコツコツと焼き上げてきた素焼きの土鈴に、一つ一つ手作業で丁寧に色を入れ、表情を描いていきます。
「今年は少ないですが、それでも2000個はつくりますね。一つ一つに福が招かれますようにという思いを込めてつくっています」
そう話すのは「がくなん」の二代目、斉藤岳南さんです。
△土鈴に色を入れる岳南さん
キュートな表情にはたくさんの思いが
「がくなん」は郷土玩具や民芸品などをつくっている工房です。年末は干支の土鈴づくりに集中しますが、メインでつくっているのはこの地域で江戸時代からつくられてきている伝統の「甲州だるま」です。なかでも150年ほど前からつくられているという「甲州親子だるま」は、お腹に子どもを抱えたかわいらしい姿が印象的で、全国でほかにはどこにもない甲州だけに伝わるユニークなだるまです。
その素朴な表情はひと目見るだけでほほ笑んでしまい、見れば見るほど愛着がわいて、なんともキュート!最近は雑貨屋さんやセレクトショップなどでも販売されるようになり、世代を超えて人気を集めています。
△甲州親子だるま
そんな親子だるまの独特な形や色は、地域の歴史と関係しています。
武田信玄がつくったことで知られる信玄堤がある釜無川(かまなしがわ)から御勅使川(みだいがわ)にかけての流域は砂地が多いため米の栽培が難しく、
かつては綿や桑が育てられ、蚕の栽培が盛んでした。
親子だるまは繭や綿の豊作を願って色は基本的に白、形は繭を模していて、
子どもがたくさん生まれるようにと、お腹に子どもを抱えるスタイルになったといわれています。
親だるまの目線は子を見守り、また神棚に置いた時に拝む人と目が合うよう下向きに、子だるまは「目標に向かってまっすぐに進んでほしい」という思いを込めてまっすぐ前を見つめています。
また「親より立派な人になってくれ」という親心から、子だるまにも立派なひげがあります。
素朴で泥臭くてあったかい、個性あふれる表情
「親子だるまは色を塗るのも表情を描くのも手作業なので、二つとして同じものはないんですよ。その日の調子や気分でも変わりますね。自分が元気な時は元気な表情になります」と岳南さん。作り手によっても雰囲気が変わるそうで、父である初代岳南さんがつくった親子だるまと、二代目岳南さんがつくる親子だるまを並べてみると、確かにその表情には個性がでています。
△左が初大作、右が二代目作
「この仕事に入ったころは隣に並んで一日中、親父の仕事を見ていて、夜になると新聞紙を広げてだるまの顔を描くっていうのが一年ぐらい続きました。そうやって学んだんですが、やっぱり描き手が違うと表情は違いますね。父のと比べて私のは武骨なんですよね。父は数寄屋建築をしていた職人で、設計もしたし、俳句もたしなみ、何でもできる人だったんですよ。手の届かない存在でしたね」
△工房の壁に掲げられている初代岳南さんの写真
そんなお父さんと比べてしまい、若い時は自分のつくるものに自信が持てない時もあったといいます。
でも都内の百貨店で開催されたお正月の催事に出展していた時、同じ催事に出展していた芸術家から「あたなのものがどうしてそんなに売れるのか不思議だったが、よく見たらその理由がわかった。素朴なんだ。その泥くささがいいんだ」と言われたそうです。
「そこからですね、自信がもてるようになったのは。でもいまだに本当に満足できるものなんてできませんよ。まだまだです」と言いますが、岳南さんがつくる親子だるまには、ふんわりとした幸せを感じさせてくれるようなあたたかさがあふれています。
岳南さん自身も、この日初めてお会いしたのに初めての気がしないぐらい親しみやすく、ストーブにあたりながらの対話はとても心地よく、ついつい長居してしまったほど。岳南さんのつくるだるまや土鈴は、そんな人柄も表れているのだと思います。
大切な地域の伝統、100年は継いでいきたい
東京オリンピック以降の観光ブームがピークの頃は、各地の観光地で土産品が飛ぶように売れ、岳南さんも週末には朝から親子だるまをいくつも包んだ風呂敷を抱えてバスに乗り、お母さんと二手に分かれて山中湖や河口湖まで売りに行っていたそうです。でも土産品も多様化していく中で、観光地での販売は少なくなり、民芸品をつくる人も減っていったといいます。
甲州だるまもかつては県内の何ヵ所もの工房でつくられていたそうですが、現在は岳南さんの工房だけです。
「何百年も続いてきたものがぷつっと切れてしまうのはやっぱり寂しいですよね。地域の伝統を継いでいくためにも、つくり続けていきたいと思います。親父の代からここまで70年余り。100年は続くようにしたいですね」
工房には今、息子さん2人が入っていて、一緒にだるまや土鈴づくりに取り組んでいます。
この時代に伝統工芸や民芸で食べていくことの厳しさも実感しているという二男の忠雄さんは「伝統が続けばいいなとは思っています」と控えめに言いますが、子どもたちに人気の風車をつくって各地のクラフト市に出展するなど、新たな活動も展開しながら「がくなん」を盛り上げています。
そんな息子さんたちの存在を岳南さんも心強く感じているようで、「あとに続く者がいるかいないかは大きな違いですからね」とうれしそうな笑顔を浮かべました。
最後にお2人に並んでもらって写真を撮りました。カメラを向けると、素敵な笑顔になった2人。その姿が、手にしている甲州親子だるまと重なりました。
△岳南さんと忠雄さん
甲州親子だるまのお求めは工房を訪ねるほか、甲府駅から車で10分のところにある「山梨県地場産業センター かいてらす」や、甲府駅ビル・セレオ内にある雑貨店などでも取り扱っています。
工房を訪ねる際は、営業時間などを問い合わせてから出掛けてみてください。
■民芸工房 がくなん
住所 山梨県甲府市池田2-4-5
電話番号 055-252-7661